Sanseido Dictionary
なむ
なむ (助動 )活用 ○ ○ なむ なむ なめ ○ 〔上代東国方言 〕推量の助動詞 →らむ に同じ 。「橘の古婆の放髪 (はなり )が思ふ なむ 心愛 (うつく )しいで我 (あれ )は行かな 」〈万葉集 3496 〉「まかなしみさ寝に我は行く鎌倉の水無瀬川 (みなのせがわ )に潮満つ なむ か 」〈万葉集 3366 〉「群玉のくるにくぎ鎖し固めとし妹 (いも )が心は動く なめ かも 」〈万葉集 4390 〉〔推量の助動詞 「らむ 」に相当する上代東国方言には ,別に 「なも 」の形もある 〕 →なも (助動 )
なむ
なむ (係助 )〔上代の係助詞 「なも 」の転 。平安中期以降 「なん 」と発音されるようになり ,「なん 」とも書かれた 〕体言および体言に準ずるもの ,助詞などに付き ,特に取りたてて強く指示する意を表す 。① 文中にあって係りとなり ,文末の活用語を連体形で結ぶ 。「身はいやしながら ,母 ―宮なりける 」〈伊勢物語 84 〉「この北山に ,限りなく響きのぼる物の音 ―聞こゆる 」〈宇津保物語 俊蔭 〉② 「なむ 」を受ける述語を省略し ,文末にあって ,余情をもたせる言い方をとる 。「かく聞こえたりければ ,見さして帰り給ひにけりと ―」〈伊勢物語 104 〉「ただここに ,人づてならで申すべきこと ―」〈枕草子 七一 春曙抄 〉〔「なむ 」は ,物語などでの会話文中に多く見られ ,和歌にはほとんど用いられない 〕
なむ
なむ (終助 )〔平安中期以降 「なん 」と発音されるようになり ,「なん 」とも書かれた 〕文末にあって動詞 助動詞の未然形に接続する 。ある行為 事態の実現を期待し ,あつらえ望む意を表す 。…てほしい 。…てもらいたい 。「うちなびく春とも著くうぐひすは植ゑ木の木間 (こま )を鳴き渡ら ―」〈万葉集 4495 〉「飛ぶ鳥の声も聞えぬ奥山の深き心を人は知ら ―」〈古今和歌集 恋一 〉「引き替へて嬉しかるらむ心にも憂かりし事は忘れざら なん 」〈山家集 雑 〉〔上代には ,この語の古形 「なも 」も用いられた 〕 →なも (終助 )
なむ
な ◦む (連語 )〔完了の助動詞 「ぬ 」の未然形 「な 」に推量の助動詞 「む 」の付いたもの 。「なん 」とも 〕① 動作 状態の実現すること ,完了することを確認し推測する意を表す 。…するようになるであろう 。…することになってしまうだろう 。「年を経て花の便りにこととはばいとどあだなる名をや立ち ―◦む 」〈後撰和歌集 春中 〉② 動作 状態を実現しようとする強い意志を表す 。「かくだにも妹を待ち ―◦むさ夜ふけて出で来し月の傾 (かたぶ )くまでに 」〈万葉集 2820 〉③ 動作 状態の実現を勧誘し ,また ,その実現が適当であるとする意を表す 。…したらどうだろう 。…したほうがよいだろう 。「忍びては参り給ひ ―◦むや 」〈源氏物語 桐壺 〉「子といふものなくてあり ―◦ん 」〈徒然草 6 〉④ 動作 状態の実現を可能であると推量し ,また ,許容する意を表す 。…することができるだろう 。…てもかまわないだろう 。「かばかりになりては ,飛びおるともおり ―◦ん 」〈徒然草 109 〉